《うつ》るのを覗《のぞ》いたり、漫歩《そゞろあるき》をして居《ゐ》たが、藪《やぶ》が近《ちか》く、蚊《か》が酷《ひど》いから、座敷《ざしき》の蚊帳《かや》が懷《なつか》しくなつて、内《うち》へ入《はひ》らうと思《おも》つたので、戸《と》を開《あ》けようとすると閉出《しめだ》されたことに氣《き》がついた。
 それから墓石《はかいし》に乘《の》つて推《お》して見《み》たが、原《もと》より然《さ》うすれば開《あ》くであらうといふ望《のぞみ》があつたのではなく、唯《たゞ》居《ゐ》るよりもと、徒《いたづ》らに試《こゝろ》みたばかりなのであつた。
 何《なん》にもならないで、ばたりと力《ちから》なく墓石《はかいし》から下《お》りて、腕《うで》を拱《こまぬ》き、差俯向《さしうつむ》いて、ぢつとして立《た》つて居《ゐ》ると、しつきりなしに蚊《か》が集《たか》る。毒蟲《どくむし》が苦《くる》しいから、もつと樹立《こだち》の少《すくな》い、廣々《ひろ/″\》とした、うるさくない處《ところ》をと、寺《てら》の境内《けいだい》に氣《き》がついたから、歩《ある》き出《だ》して、卵塔場《らんたふば》の開戸《ひらき
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