だう》に隣《とな》つた八|疊《でふ》の、横《よこ》に長《なが》い置床《おきどこ》の附《つ》いた座敷《ざしき》で、向《むか》つて左手《ゆんで》に、葛籠《つゞら》、革鞄《かばん》などを置《お》いた際《きは》に、山科《やましな》といふ醫學生《いがくせい》が、四六《しろく》の借蚊帳《かりかや》を釣《つ》つて寢《ね》て居《ゐ》るのである。
 聲《こゑ》を懸《か》けて、戸《と》を敲《たゝ》いて、開《あ》けておくれと言《い》へば、何《なん》の造作《ざうさ》はないのだけれども、止《よ》せ、と留《と》めるのを肯《き》かないで、墓原《はかはら》を夜中《よなか》に徘徊《はいくわい》するのは好心持《いゝこゝろもち》のものだと、二《ふた》ツ三《み》ツ言爭《いひあらそ》つて出《で》た、いまのさき、内《うち》で心張棒《しんばりぼう》を構《かま》へたのは、自分《じぶん》を閉出《しめだ》したのだと思《おも》ふから、我慢《がまん》にも恃《たの》むまい。……
 冷《つめた》い石塔《せきたふ》に手《て》を載《の》せたり、濕臭《しめりくさ》い塔婆《たふば》を掴《つか》んだり、花筒《はなづつ》の腐水《くされみづ》に星《ほし》の映
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