なじ名《な》に聞《きこ》えた亂橋《みだればし》といふのである。
 此《こ》の上《うへ》で又《ま》た立停《たちとま》つて前途《ゆくて》を見《み》ながら、由井《ゆゐ》ヶ濱《はま》までは、未《ま》だ三|町《ちやう》ばかりあると、つく/″\然《さ》う考《かんが》へた。三|町《ちやう》は蓋《けだ》し遠《とほ》い道《みち》ではないが、身體《からだ》も精神《せいしん》も共《とも》に太《いた》く疲《つか》れて居《ゐ》たからで。
 しかし其《その》まゝ素直《まつすぐ》に立《た》つてるのが、餘《あま》り辛《つら》かつたから又《ま》た歩《ある》いた。
 路《みち》の兩側《りやうがは》しばらくのあひだ、人家《じんか》が斷《た》えては續《つゞ》いたが、いづれも寢靜《ねしづ》まつて、白《しら》けた藁屋《わらや》の中《なか》に、何家《どこ》も何家《どこ》も人《ひと》の氣勢《けはひ》がせぬ。
 其《そ》の寂寞《せきばく》を破《やぶ》る、跫音《あしおと》が高《たか》いので、夜更《よふけ》に里人《さとびと》の懷疑《うたがひ》を受《う》けはしないかといふ懸念《けねん》から、誰《たれ》も咎《とが》めはせぬのに、拔足《ぬきあし
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