……夢中《むちう》で、色《いろ》の褪《あ》せた、天井《てんじやう》の低《ひく》い、皺《しわ》だらけな蚊帳《かや》の片隅《かたすみ》を掴《つか》んで、暗《くら》くなつた灯《ひ》の影《かげ》に、透《す》かして蚊帳《かや》の裡《うち》を覗《のぞ》いた。
 醫學生《いがくせい》は肌脱《はだぬぎ》で、うつむけに寢《ね》て、踏返《ふみかへ》した夜具《やぐ》の上《うへ》へ、兩足《りやうあし》を投懸《なげか》けて眠《ねむ》つて居《ゐ》る。
 ト枕《まくら》を並《なら》べ、仰向《あをむけ》になり、胸《むね》の上《うへ》に片手《かたて》を力《ちから》なく、片手《かたて》を投出《なげだ》し、足《あし》をのばして、口《くち》を結《むす》んだ顏《かほ》は、灯《ひ》の片影《かたかげ》になつて、一人《ひとり》すや/\と寢《ね》て居《ゐ》るのを、……一目《ひとめ》見《み》ると、其《それ》は自分《じぶん》であつたので、天窓《あたま》から氷《こほり》を浴《あ》びたやうに筋《すぢ》がしまつた。
 ひたと冷《つめた》い汗《あせ》になつて、眼《め》を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みひら》き、殺《ころ》されるのであ
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