ゞ》辷《すべ》つてあるいて、少《すこ》しも轣轆《れきろく》の音《おと》の聞《きこ》えなかつたことも念頭《ねんとう》に置《お》かないで、早《はや》く此《こ》の懊惱《あうなう》を洗《あら》ひ流《なが》さうと、一直線《いつちよくせん》に、夜明《よあけ》に間《ま》もないと考《かんが》へたから、人憚《ひとはゞか》らず足早《あしばや》に進《すゝ》んだ。荒物屋《あらものや》の軒下《のきした》の薄暗《うすくら》い處《ところ》に、斑犬《ぶちいぬ》が一|頭《とう》、うしろ向《むき》に、長《なが》く伸《の》びて寢《ね》て居《ゐ》たばかり、事《こと》なく着《つ》いたのは由井《ゆゐ》ヶ濱《はま》である。
碧水金砂《へきすゐきんさ》、晝《ひる》の趣《おもむき》とは違《ちが》つて、靈山《りやうぜん》ヶ崎《さき》の突端《とつぱな》と小坪《こつぼ》の濱《はま》でおしまはした遠淺《とほあさ》は、暗黒《あんこく》の色《いろ》を帶《お》び、伊豆《いづ》の七島《しちたう》も見《み》ゆるといふ蒼海原《あをうなばら》は、さゝ濁《にごり》に濁《にご》つて、果《はて》なくおつかぶさつたやうに堆《うづだか》い水面《すゐめん》は、おなじ
前へ
次へ
全19ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング