淀《よど》んで居《ゐ》るのも、夜明《よあけ》に間《ま》のない所爲《せゐ》であらう。墓原《はかはら》へ出《で》たのは十二|時過《じすぎ》、それから、あゝして、あゝして、と此處《こゝ》まで來《き》た間《あひだ》のことを心《こゝろ》に繰返《くりかへ》して、大分《だいぶん》の時間《じかん》が經《た》つたから。
 と思《おも》ふ内《うち》に、車《くるま》は自分《じぶん》の前《まへ》、ものの二三|間《げん》隔《へだ》たる處《ところ》から、左《ひだり》の山道《やまみち》の方《はう》へ曲《まが》つた。雪《ゆき》の下《した》へ行《ゆ》くには、來《き》て、自分《じぶん》と摺《す》れ違《ちが》つて後方《うしろ》へ通《とほ》り拔《ぬ》けねばならないのに、と怪《あやし》みながら見ると、ぼやけた色《いろ》で、夜《よる》の色《いろ》よりも少《すこ》し白《しろ》く見《み》えた、車《くるま》も、人《ひと》も、山道《やまみち》の半《なかば》あたりでツイ目《め》のさきにあるやうな、大《おほ》きな、鮮《あざやか》な形《かたち》で、ありのまゝ衝《つ》と消《き》えた。
 今《いま》は最《も》う、さつきから荷車《にぐるま》が唯《た
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