でございまして、あれで一枚着飾らせますれば、上《うえ》つ方《がた》のお姫様と申しても宜《い》い位。」
三
「ほほほ、賞《ほ》めまするに税は立たず、これは柳橋も新橋も御存じでいらっしゃいましょう、旦那様のお前で出まかせなことを失礼な。」
小山判事は苦笑をして、
「串戯《じょうだん》をいっては不可《いか》ん、私は学生だよ。」
「あら、あんなことをおっしゃって、貴方《あなた》は何ぞの先生様でいらっしゃいますよ。」
「まあその娘がどうしたというのだ。」と小山は胡坐《あぐら》をどっかりと組直した。
落着いて聞いてくれそうな様子を見て取り、婆さんは嬉しそうに、
「何にいたせ、ちっとでもお心に留っておりますなら可哀そうだと思ってやって下さいまし。こうやってお傍《そば》でお話をいたしますのは今日がはじめて。私《わたくし》どもへお休み下さいましたのはたった二度なんでございますけれども、他《ほか》に誰も居《お》りませず、ちょうどあの娘《こ》が来合せました時でよくお顔を存じておりますし、それにこう申してはいかがでございますが、旦那様もあの娘《こ》を覚えていらっしゃいますように存じます。
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