て頬を支えていた手を膝に取って、
「おお、それは難有《ありがと》う。」
と婆《ばば》の目には、もの珍しく見ゆるまで、かかる紳士の優しい容子《ようす》を心ありげに瞻《みまも》ったが、
「時に旦那様。」
「むむ、」
「まあ可哀そうだと思召《おぼしめ》しまし、この間お休み遊ばしました時、ちょっと参りましたあの女でございますが、御串戯《ごじょうだん》ではございましょうが、旦那様も佳《い》い女だな、とおっしゃって下さいましたあのことでございますがね、」
と言いかけてちょっと猶予《ためら》って、聞く人の顔の色を窺《うかが》ったのは、こういって客がこのことについて注意をするや否やを見ようとしたので。心にもかけないほどの者ならば話し出して退屈をさせるにも及ばぬことと、年寄だけに気が届いたので、案のごとく判事は聴く耳を立てたのである。
「おお、どうかしたか、本当に容子《ようす》の佳い女《こ》だよ。」
「はい、容子の可《い》い女《こ》で。旦那様は都でいらっしゃいます、別にお目にも留りますまいが、私《わたくし》どもの目からはまるでもう弁天様か小町かと見えますほどです。それに深切で優しいおとなしい女《こ》
前へ
次へ
全61ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング