る下道を、黒白《あやめ》に紛るる女の姿、縁《えにし》の糸に引寄せられけむ、裾も袂《たもと》も鬢《びん》の毛も、夕《ゆうべ》の風に漂う風情。
十八
「おお、あれは。」
「お米でございますよ、あれ、旦那様、お米さん、」と判事にいうやら、女《むすめ》を呼ぶやら。お幾は段を踏辷《ふみすべ》らすようにしてずるりと下りて店さきへ駆け出すと、欄干《てすり》の下を駆け抜けて壁について今、婆さんの前へ衝《つ》と来たお米、素足のままで、細帯《ほそおび》ばかり、空色の袷《あわせ》に襟のかかった寝衣《ねまき》の形《なり》で、寝床を脱出《ぬけだ》した窶《やつ》れた姿、追かけられて逃げる風で、あわただしく越そうとする敷居に爪先《つまさき》を取られて、うつむけさまに倒れかかって、横に流れて蹌踉《よろめ》く処を、
「あッ、」といって、手を取った。婆さんは背《せな》を支えて、どッさり尻をついて膝を折りざまに、お米を内へ抱え込むと、ばったり諸共に畳の上。
この煽《あお》りに、婆さんが座右の火鉢の火の、先刻《さっき》からじょう[#「じょう」に傍点]に成果てたのが、真白《まっしろ》にぱっと散って、女《むす
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