ったが、
「いえ、もう下らないこと、くどくど申上げまして、よくお聞き遊ばして下さいました。昔ものの口不調法、随分御退屈をなすったでございましょう。他《ほか》に相談相手といってはなし、交番へ届けまして助けて頂きますわけのものではなし、また親類のものでも知己《ちかづき》でも、私《わたくし》が話を聞いてくれそうなものには謂いました処で思遣《おもいやり》にも何にもなるものじゃあございません、旦那様が聞いて下さいましたので、私は半分だけ、荷を下しましたように存じます。その御深切だけで、もう沢山なのでございますが、欲には旦那様何とか御判断下さいますわけには参りませんか。
こんな事を申しましてお聞上げ……どころか、もしお気に障りましては恐入りますけれども、一度旦那様をお見上げ申しましてからの、お米の心は私がよく存じております。囈言《うわごと》にも今度のその何か済まないことやらも、旦那様に対してお恥かしいことのようでもございますが、仂《はした》ない事を。
飛んだことをいう奴だと思し召しますなら、私だけをお叱り下さいまして、何にも知りませんお米をおさげすみ下さいますなえ。
それにつけ彼《か》につけ
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