済まないことをしましたので、神様、仏様にはどんな御罰《おばち》を蒙《こうむ》るか知れません。
憎らしい鼻の爺《じじい》は、それはそれは空恐ろしいほど、私の心の内を見抜いていて、日に幾たびとなく枕許《まくらもと》へ参っては、
(女《むすめ》、罪のないことは私《わし》がよう知っている、じゃが、心に済まぬ事があろう、私を頼め、助けてやる、)と、つけつまわしつ謂うのだそうで。
お米は舌を食い切っても爺の膝を抱くのは、厭《いや》と冠《かぶり》をふり廻すと申すこと。それは私も同一《おんなじ》だけれども、罪のないものが何を恐《こわ》がって、煩うということがあるものか。済まないというのは一体どんな事と、すかしても、口説いても、それは問わないで下さいましと、強いていえば震えます、頼むようにすりゃ泣きますね、調子もかわって目の色も穏《おだやか》でないようでございましたが、仕方がございません。で、しおしおその日は帰りまして、一杯になる胸を掻破《かきやぶ》りたいほど、私が案ずるよりあの女《こ》の容体は一倍で、とうとう貴方、前後が分らず、厭なことを口走りまして、時々、それ巡査《おまわり》さんが捕まえる、きゃ
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