けるとって、植吉の女房《かみさん》はあたふた帰ってしまいました。何も悪気のある人ではなし、私とお米との仲を知ってるわけもないのでございますから、驚かして慰むにも当りません、お米は何にも知らないにしましても、いっただけのことはその日ありましたに違いないのでございますもの。
 私は寝られはいたしません。
 帰命頂来《きみょうちょうらい》! お米が盗んだとしますれば、私はその五百円が紛失したといいまする日に、耳を揃えて頂かされたのでございます。
 どんな顔をされまいものでもないと、口惜《くやし》さは口惜し、憎らしさは憎らし、もうもう掴《つか》みついて引※[#「てへん+劣」、第3水準1−84−77]《ひきむし》ってやりたいような沢井の家の人の顔を見て、お米に逢いたいと申して出ました。」

       十六

「それも、行《ゆ》こうか行くまいかと、気を揉《も》んで揉抜いた揚句、どうも堪《たま》らなくなりまして思切って伺いましたので。
 心からでございましょう、誰の挨拶もけんもほろろに聞えましたけれども、それはもうお米に疑《うたがい》がかかったなんぞとは、※[#「口+愛」、第3水準1−15−23
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