か》させる数《すう》ではなし、もともと念晴しだけのこと、縄着《なわつき》は邸内《やしきうち》から出すまいという奥様の思召し、また爺さんの方でも、神業《かみわざ》で、当人が分ってからが、表沙汰にはしてもらいたくないと、約束をしてかかった祈《いのり》なんだそうだから僥倖《しあわせ》さ。しかし太い了簡《りょうけん》だ、あの細い胴中《どうなか》を、鎖で繋《つな》がれる様《さま》が見たいと、女中達がいっておりました。ほんとうに女形が鬘《かつら》をつけて出たような顔色《かおつき》をしていながら、お米と謂うのは大変なものじゃあございませんか、悪党でもずっと四天《よてん》で出る方だね、私どもは聞いてさえ五百円!)とその植木屋の女房《かみさん》が饒舌《しゃべ》りました饒舌りました。
 旦那様もし貴方、何とお聞き遊ばして下さいますえ。」
 判事は右手《めて》のさきで、左の腕《かいな》を洋服の袖の上からしっかとおさえて、屹《きっ》とお幾の顔を見た。
「どう思召して下さいます、私《わたくし》は口が利けません、いいわけをするのさえ残念で堪《たま》りませんから碌《ろく》に返事もしないでおりますと、灯《あかり》をつ
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