衛門爺さんの奇特でございます。沢井様でも誰も地震などと思った方はないのでして、ただ草を刈っておりました私の目にばかりお居間の揺れるのが見えたのでございます。大方神様がお寄んなすった験《しるし》なんでございましょうよ。案の定、お前さん、ちょうど祈祷の最中、思い合してみますれば、瓦が揺れたのを見ましたのとおなじ時、次のお座敷で、そのお勢というのに手伝って、床の間の柱に、友染の襷《たすき》がけで艶雑巾《つやぶきん》をかけていたお米という小間使が、ふっと掛花活《かけはないけ》の下で手を留めて、活けてありました秋草をじっと見ながら、顔を紅《べに》のようにしたということですよ。何か打合せがあって、密《そっ》と目をつけていたものでもあると見えます。お米はそのまんま、手が震えて、足がふらついて、わなわなして、急に熱でも出たように、部屋へ下って臥《ふせ》りましたそうな。お昼|過《すぎ》からは早や、お邸中寄ると触ると、ひそひそ話。
 高い声では謂われぬことだが、お金子《かね》の行先はちゃんと分った。しかし手証を見ぬことだから、膝下《ひざもと》へ呼び出して、長煙草《ながぎせる》で打擲《ひっぱた》いて、吐《ぬ
前へ 次へ
全61ページ中47ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング