《ひとま》の方《かた》を見ておりました。何をしたか分りません、障子|襖《ふすま》は閉切ってございましたっけ、ものの小半時|経《た》ったと思うと、見ていた私は吃驚《びっくり》して、地震だ地震だ、と極《きまり》の悪い大声を立てましたわ、何の事はない、お居間の瓦屋根が、波を打って揺れましたもの、それがまた目まぐるしく大揺れに揺れて、そのままひッそり静まりましたから、縁側の処へ駆けつけて、ちょうど出て参りましたお勢さんという女中に、酷《ひど》い地震でございましたね、と謂いますとね、けげんな顔をして、へい、と謂ったッきり、気《け》もないことなんで、奇代で奇代で。)とこう申すんでございましょう。」
十五
「いかにも私だって地震があったとは思いません、その朝は、」
と婆さんは振返って、やや日脚の遠退《とおの》いた座を立って、程過ぎて秋の暮方の冷たそうな座蒲団を見遣りながら、
「ねえ、旦那様、あすこに坐っておりましたが、風立ちもいたしませず、障子に音もございません、穏かな日なんですもの。
(変じゃあないか、女房《おかみ》さん、それはまたどうした訳だろう、)
(それが御祈祷をした仁右
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