い》をお頼み遊ばすことになりました。
 府中の白雲山の庵室へ、佐助がお使者に立ったとやら。一日|措《お》いて沢井様へ参りましたそうでございます。そしてこれはお米から聞いた話ではございません、爺をお招きになりましたことなんぞ、私はちっとも存じないでおりますと、ちょうどその卜《うらない》を立てた日の晩方でございます。
 旦那様、貴下《あなた》が桔梗《ききょう》の花を嗅《か》いでる処を御覧じゃりましたという、吉《きち》さんという植木屋の女房《かみさん》でございます。小体《こてい》な暮しで共稼ぎ、使歩行《つかいあるき》やら草取やらに雇われて参るのが、稼《かせぎ》の帰《かえり》と見えまして、手甲脚絆《てっこうきゃはん》で、貴方、鎌を提げましたなり、ちょこちょこと寄りまして、
(お婆さん今日は不思議なことがありました。沢井様の草刈に頼まれて朝|疾《はや》くからあちらへ上って働いておりますと、五百円のありかを卜《うらな》うのだといって、仁右衛門爺さんが、八時頃に遣って来て、お金子《かね》が紛失したというお居室《いま》へ入って、それから御祈祷《ごきとう》がはじまるということ、手を休めてお庭からその一室
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