は胸がすいたように申しましたが。
 なるほど、その後はしばらくこの辺へは立廻りません様子。しばらく影を見ませんから、それじゃあそれなりになったかしら。帳消しにはなるまいと思いながら、一日ましに私もちっとは気がかりも薄らぎました。
 そういたしますと今度の事、飛んでもない、旦那様、五百円紛失の一件で、前《ぜん》申しました沢井様へ出入の大八百屋が、あるじ自分で罷《まかり》出ましてさ、お金子《かね》の行方を、一番《ひとつ》、是非、だまされたと思って仁右衛門にみておもらいなさいまし、とたって、勧めたのでございますよ。
 どうして礼なんぞ遣《や》っては腹を立って祟《たたり》をします、ただ人助けに仕《つかまつ》りますることで、好《すき》でお籠《こもり》をして影も形もない者から聞いて来るのでございます、と悪気のない男ですが、とかく世話好の、何でも四文《しもん》とのみ込んで差出たがる親仁なんで、まめだって申上げたものですから、仕事はなし、新聞は五種《いついろ》も見ていらっしゃる沢井の奥様。
 内々その予言者だとかいうことを御存じなり、外に当《あたり》はつかず、旁々《かたがた》それでは、と早速|爺《じじ
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