む位な信心をしているとばかり承知をいたしておりましたので、
(不可《いけ》ませんよ、不可ませんよ、)といっても、ぬッとしてクンクン。
(お前はうるさいね、)と手にしていた針の尖《さき》、指環《ゆびわ》に耳を突立《つった》てながら、ちょいと鼻頭《はながしら》を突いたそうでございます、はい。」
 といって婆さんは更《あらた》まった。

       十四

「洋犬《かめ》の妾《めかけ》になるだろうと謂われるほど、その緋の袴でなぶられるのを汚《けがら》わしがっていた、処女《むすめ》気で、思切ったことをしたもので、それで胸がすっきりしたといつか私《わたくし》に話しましたっけ。
 気味を悪がらせまいとは申しませんでしたが、ああこの女《こ》は飛んだことをおしだ、外のものとは違ってあのけたい[#「けたい」に傍点]親仁。
 蝮《まむし》の首を焼火箸《やけひばし》で突いたほどの祟《たたり》はあるだろう、と腹《おなか》じゃあ慄然《ぞっと》いたしまして、爺《じじい》はどうしたと聞きましたら、
(いいえ、やっぱりむずむずしてどこかへ行ってしまいました、それッきり、さっぱり見かけないんですよ。)と手柄顔に、お米
前へ 次へ
全61ページ中43ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング