は鳴《なら》したのでございます。
麹室《こうじむろ》の中へ縛られたような何ともいわれぬ厭《いや》な気持で、しばらくは我慢をもしましたそうな。
お米が気の弱い臆病ものの癖に、ちょっと癇持《かんもち》で、気に障ると直きつむりが疼《いた》み出すという風なんですから堪《たま》りませんや。
それでもあの爺の、むかしむかしを存じておりますれば、劫《こう》経《へ》た私《わたくし》どもでさえ、向面《むこうづら》へ廻しちゃあ気味の悪い、人間には籍のないような爺、目を塞《ふさ》いで逃げますまでも、強《きつ》いことなんぞ謂《い》われたものではございませんが、そこはあの女《こ》は近頃こちらへ参りましたなり、破風口《はふぐち》から、=無事か=の一件なんざ、夢にも知りませず、また沢井様などでも誰もそんなことは存じません。
串戯《じょうだん》にも、つけまわしている様子を、そんな事でも聞かせましたら、夜が寝られぬほど心持を悪くするだろうと思いますから、私もうっかりしゃべりませんでございますから、あの女《こ》はただ汚い変な乞食、親仁《おやじ》、あてにならぬ卜者《うらないしゃ》を、愚痴無智の者が獣《けだもの》を拝
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