んやりどこにかあの爺が立ってるのを見つけましたものが、もしその歩き出しますのを待っておりますれば、きっとお米の姿が道に見えると申したようなわけでございまして。」

       十三

「おなじ奉公人どもが、たださえ口の悪い処へ、大事|出来《しゅったい》のように言い囃《はや》して、からかい半分、お米さんは神様のお気に入った、いまに緋《ひ》の袴《はかま》をお穿《は》きだよ、なんてね。
 まさかに気があろうなどとは、怪我にも思うのじゃございますまいが、串戯《じょうだん》をいわれるばかりでも、癩病《かったい》の呼吸《いき》を吹懸《ふっか》けられますように、あの女《こ》も弱り切っておりましたそうですが。
 つい事の起ります少し前でございました、沢井様の裏庭に夕顔の花が咲いた時分だと申しますから、まだ浴衣を着ておりますほどのこと。
 急ぎの仕立物がございましたかして、お米が裏庭に向きました部屋で針仕事をしていたのでございます。
 まだ明《あかり》も点《つ》けません、晩方、直《じ》きその夕顔の咲いております垣根のわきがあらい格子。手許《てもと》が暗くなりましたので、袖が触りますばかりに、格子の処へ
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