歩行《ある》いちゃ、五宿の宿場女郎の張店《はりみせ》を両側ね、糸をかがりますように一軒々々格子戸の中へ鼻を突込《つっこ》んじゃあクンクン嗅《か》いで歩行《ある》くのを御存じないか、と内々私はちっと聞いたことがございますので、そう思っておりましたが、善くは思いませんばかりでも、お肚《なか》のことを嗅ぎつけられて、変な杖でのろわれたら、どんな目に逢おうも知れぬと、薄気味の悪い爺《じじい》なんでございます。
それが貴方、以前からお米を貴方。」
と少し言渋りながら、
「跟《つ》けつ廻しつしているのでございます。」と思切った風でいったのである。
「何、お米を、あれが、」と判事は口早にいって、膝を立てた。
「いいえ、あの、これと定ったこともございません、ございませんようなものの、ふらふら堀ノ内様の近辺、五宿あたり、夜更《よふけ》でも行きあたりばったりにうろついて、この辺へはめったに寄りつきませなんだのが、沢井様へお米が参りまして、ここでもまた、容色《きりょう》が評判になりました時分から、藪《やぶ》からでも垣からでも、ひょいと出ちゃああの女《こ》の行《ゆ》くさきを跟《つ》けるのでございます。薄ぼ
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