のは、こりゃ葬式《とむらい》が出ましたから事実《まったく》なんで。
さあ、どんづまりのその女郎が殺されましてからは、怪我にもゆき人《て》がございません、これはまた無いはずでございましょう。
そうすると一年、二年、三年と、段々店が寂れまして、家も蔵も旧《もと》のようではなくなりました。一時は買込んだ田地《でんじ》なども売物に出たとかいう評判でございました。
そうこういたします内に、さよう、一昨年でございましたよ、島屋の隠居が家《うち》へ帰ったということを聞きましたのは。それから戦争の祈祷の評判、ひとしきりは女房一件で、饅頭の餡でさえ胸を悪くしたものも、そのお国のために断食をした、お籠《こもり》をした、千里のさき三年のあとのあとまで見通しだと、人気といっちゃあおかしく聞えますが、また隠居殿の曲った鼻が素直《まっすぐ》になりまして、新聞にまで出まする騒ぎ。予言者だ、と旦那様、活如来《いきにょらい》の扱《あつかい》でございましょう。
ああ、やれやれ、家《うち》へ帰ってもあの年紀《とし》で毎晩々々|機織《はたおり》の透見をしたり、糸取場を覗《のぞ》いたり、のそりのそり這《は》うようにして
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