で言うのを聞きながら、判事は二ツばかり握拳《にぎりこぶし》を横にして火鉢の縁《ふち》を軽く圧《おさ》えて、確めるがごとく、
「あの鼻が、活如来?」
「いいえ、その新聞には予言者、どういうことか私《わたくし》には解りませんが、そう申して出しましたそうで。何しろ貴方、先《せん》の二十七年八年の日清戦争の時なんざ、はじめからしまいまで、昨日《きのう》はどこそこの城が取れた、今日は可恐《おそろ》しい軍艦を沈めた、明日は雪の中で大戦《おおいくさ》がある、もっともこっちがたが勝じゃ喜びなさい、いや、あと二三ヶ月で鎮るが、やがて台湾が日本のものになるなどと、一々申す事がみんな中《あた》りまして、号外より前《さき》に整然《ちゃあん》と心得ているくらいは愚《おろか》な事。ああ今頃は清軍《ちゃんちゃん》の地雷火を犬が嗅《か》ぎつけて前足で掘出しているわの、あれ、見さい、軍艦の帆柱へ鷹《たか》が留った、めでたいと、何とその戦に支那へ行っておいでなさるお方々の、親子でも奥様でも夢にも解らぬことを手に取るように知っていたという吹聴《ふいちょう》ではございませんか。
それも道理、その老人《としより》は、年紀《と
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