ないな。目はしょぼしょぼして眉が薄い、腰が曲って大儀そうに、船頭が持つ櫂《かい》のような握太《にぎりぶと》な、短い杖をな、唇へあてて手をその上へ重ねて、あれじゃあ持重《もちおも》りがするだろう、鼻を乗せて、気だるそうな、退屈らしい、呼吸《いき》づかいも切なそうで、病後《やみあが》り見たような、およそ何だ、身体《からだ》中の精分が不残《のこらず》集って熟したような鼻ッつきだ。そして背を屈《かが》めて立った処は、鴻《こう》の鳥が寝ているとしか思われぬ。」
「ええ、もう傘《からかさ》のお化がとんぼ[#「とんぼ」に傍点]を切った形なんでございますよ。」
「芬《ぷん》とえた村へ入ったような臭《におい》がする、その爺《じい》、余り日南《ひなた》ぼッこを仕過ぎて逆上《のぼ》せたと思われる、大きな真鍮《しんちゅう》の耳掻《みみかき》を持って、片手で鼻に杖をついたなり、馬面を据えておいて、耳の穴を掻きはじめた。」
「あれは癖でございまして、どんな時でも耳掻を放しましたことはないのでございます。」
「余り希代だから、はてな、これは植木屋の荷じゃあなくッて、どこへか小屋がけをする飾《かざり》につかう鉢物《は
前へ 次へ
全61ページ中26ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング