。
私はこう下を向いて来かかったが、目の前をちょろちょろと小蛇が一条《ひとすじ》、彼岸|過《すぎ》だったに、ぽかぽか暖かったせいか、植木屋の生垣の下から道を横に切って畠の草の中へ入った。大嫌《だいきらい》だから身震《みぶるい》をして立留ったが、また歩行《ある》き出そうとして見ると、蛇よりもっとお前心持の悪いものが居たろうではないか。
それが爺《じじい》よ。
綿を厚く入れた薄汚れた棒縞《ぼうじま》の広袖《どてら》を着て、日に向けて背《せなか》を円くしていたが、なりの低い事。草色の股引《ももひき》を穿《は》いて藁草履《わらぞうり》で立っている、顔が荷車の上あたり、顔といえば顔だが、成程鼻といえば鼻が。」
「でございましょうね、旦那様。」
「高いんじゃあないな、あれは希代だ。一体|馬面《うまづら》で顔も胴位あろう、白い髯《ひげ》が針を刻んでなすりつけたように生えている、頤《おとがい》といったら臍《へそ》の下に届いて、その腮《あご》の処《とこ》まで垂下って、口へ押冠《おっかぶ》さった鼻の尖《さき》はぜんまいのように巻いているじゃあないか。薄紅《うすあか》く色がついてその癖筋が通っちゃあい
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