》ねていらっしゃいまして、早口で弁舌の爽《さわやか》な、ちょこまかにあれこれあれこれ、始終|小刻《こきざみ》に体を動かし通し、気の働《はたらき》のあらっしゃるのは格別でございます、旦那様。」と上目づかい。
 判事は黙ってうなずいた。
 婆さんは唾《つ》をのんで、
「お米はいつもお情《なさけ》ない方だとばかり申しますが、それは貴方、女中達の箸《はし》の上げおろしにも、いやああだのこうだのとおっしゃるのも、欲《ほし》いだけ食べて胃袋を悪くしないようにという御深切でございましょうけれども、私《わたくし》は胃袋へ入ることよりは、腑《ふ》に落ちぬことがあるでございますよ。」

       六

「昨年《きょねん》のことで、妙にまたいとこはとこが搦《から》みますが、これから新宿の汽車や大久保、板橋を越しまして、赤羽へ参ります、赤羽の停車場《ステエション》から四人|詰《づめ》ばかりの小さい馬車が往復しまする。岩淵《いわぶち》の渡場《わたしば》手前に、姉の忰《せがれ》が、女房持で水呑百姓をいたしておりまして、しがない身上《みのうえ》ではありまするけれど、気立の可《い》い深切ものでございますから、私も
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