うどその朝銀行で請取っておいでなすったという、ズッシリと重いのが百円ずつで都合五枚。
 お手箪笥の抽斗《ひきだし》から厚紙に包んだのをお出しなすって、私に頂かして下さいました。
 両手に据えて拝見をいたしましたが、何と申上げようもございませぬ。ただへいへいと申上げますと、どうだね、近頃出来たばかり、年号も今年のだよ、そういうのは昔だって見た事はあるまい、また見ようたって見せられないのだから、ゆっくり御覧、正直な年寄だというから内証で拝ませるのだよ。米や茶をさしておやり、と莞爾《にこ》ついておいで遊ばす。へへ、」と婆さんは薄笑《うすわらい》をした。
 判事は眉を顰《ひそ》めたのである、片腹痛さもかくのごときは沢山あるまい。
 婆さんは額の皺《しわ》を手で擦《さす》り、
「はや実《まこと》にお情深い、もっとも赤十字とやらのお顔利《かおきき》と申すこと、丸顔で、小造《こづくり》に、肥《ふと》っておいで遊ばす、血の気の多い方、髪をいつも西洋風にお結びなすって、貴方、その時なんぞは銀行からお帰り※[#「勹<夕」、第3水準1−14−76]々《そうそう》と見えまして、白襟で小紋のお召を二枚も襲《かさ
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