んな》なり行《ゆき》だと断念《あきら》めましても、断念められませんのはお米の身の上。
 二三日顔を見せませんから案じられます、逢いとうはございます、辛抱がし切れませんでちょっと沢井様のお勝手へ伺いますと、何|貴方《あなた》、お米は無事で、奥様も珍しいほど御機嫌のいい処、竹屋の婆さんが来たが、米や、こちらへお通し、とおっしゃると、あの娘《こ》もいそいそ、連れられて上りました。このごろ客が立て込んだが、今日は誰も来ず、天気は可《よ》し、早咲の菊を見ながらちょうどお八ツ時分と、お茶お菓子を下さいまして、私《わたくし》風情へいろいろと浮世話。
 お米も嬉しそうに傍《そば》についていてくれますなり、私はまるで貴方、嫁にやった先の姑《しゅうと》に里の親が優しくされますような気で、ほくほくものでおりました。
 何、米にかねがね聞いている、婆さんお前は心懸《こころがけ》の良《い》いものだというから、滅多に人にも話されない事だけれども、見せて上げよう。黄金《きん》が肌に着いていると、霧が身のまわり六尺だけは除《よ》けるとまでいうのだよ、とおっしゃってね。
 貴方五百円。
 台湾の旦那から送って来て、ちょ
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