居ります気で巣守《すもり》をしますのでざいましてね、いいえ、愚痴《ぐち》なことを申上げますのではございませんが、お米もそこを不便《ふびん》だと思ってくれますか、間を見てはちょこちょこと駆けて来て、袂《たもと》からだの、小風呂敷からだの、好《すき》なものを出して養ってくれます深切さ、」としめやかに語って、老《おい》の目は早や涙。

       五

 密《そっ》と、筒袖《つつそで》になっている襦袢《じゅばん》の端で目を拭《ぬぐ》い、
「それでございますから一日でも顔を見ませんと寂しくってなりません、そういうことになってみますると、役者だって贔屓《ひいき》なのには可い役がさしてみとうございましょう、立派な服装《みなり》がさせてみとうございましょう。ああ、叶屋《かのうや》の二階で田之助を呼んだ時、その男衆にやった一包の祝儀があったら、あのいじらしい娘に褄《つま》の揃ったのが着せられましょうものなぞと、愚痴も出ます。唯今の姿を罰《ばち》だと思って罪滅しに懺悔《ざんげ》ばなしもいいまする。私《わたくし》もこう申してはお恥かしゅうございますが、昔からこうばかりでもございません、それもこれも皆《み
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