の様子も知っておりますことなり、まだ嫁入はいたしたくございません、我儘《わがまま》を申しますようで恐入りますけれども、奉公がしとうございますと、まあこういうので。
伯父御の方はどのみち足手まといさえなくなれば可《い》いのでございますよ、売れば五両にもなる箪笥だってお米につけないですむことですから、二ツ返事で呑込みました。
あの容色《きりょう》で家《うち》の仇名《あだな》にさえなった娘《こ》を、親身を突放したと思えば薄情でございますが、切ない中を当節柄、かえってお堅い潔白なことではございませんかね、旦那様。
漢方の先生だけに仕込んだ行儀もございます。ちょうど可い口があって住込みましたのが、唯今《ただいま》居《お》りまする、ついこの先のお邸で、お米は小間使をして、それから手が利きますので、お針もしておりますのでございますよ。」
「誰の邸だね。」
「はい、沢井さんといって旦那様は台湾のお役人だそうで、始終あっちへお詰め遊ばす、お留守は奥様、お老人《としより》はございませんが、余程の御大身だと申すことで、奉公人も他《ほか》に大勢、男衆も居《お》ります。お嬢様がお一方、お米さんが附きまして
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