ういたしてかちっとも流行らないのでございましたッて。」

       四

「流行りません癖に因果と貴方《あなた》ね、」と口もやや馴々《なれなれ》しゅう、
「お米の容色《きりょう》がまた評判でございまして、別嬪《べっぴん》のお医者、榎の先生と、番町辺、津の守坂下《かみざかした》あたりまでも皆《みんな》が言囃《いいはや》しましたけれども、一向にかかります病人がございません。
 先生には奥様と男のお児《こ》が二人、姪《めい》のお米、外見を張るだけに女中も居ようというのですもの、お苦しかろうではございませんか。
 そこで、茨城の方の田舎とやらに病院を建てた人が、もっともらしい御容子《ごようす》を取柄に副院長にという話がありましたそうで、早速|家中《うちじゅう》それへ引越すことになりますと、お米さんでございます。
 世帯を片づけついでに、古い箪笥《たんす》の一棹《ひとさお》も工面をするからどちらへか片附いたらと、体《てい》の可いまあ厄介払に、その話がありましたが、あの娘《こ》も全く縁附く気はございませず、親身といっては他《ほか》になし、山の奥へでも一所にといいたい処を、それは遣繰《やりくり》
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