角兵衛がその獅子頭《ししがしら》の中に、封じて去ったのも気懸《きがか》りになる。為替《かわせ》してきらめくものを掴《つか》ませて、のッつ反《そ》ッつの苦患《くげん》を見せない、上花主《じょうとくい》のために、商売|冥利《みょうり》、随一《ずいいち》大切な処《ところ》へ、偶然|受取《うけと》って行ったのであろうけれども。
あれがもし、鳥にでも攫《さら》われたら、思う人は虚空《こくう》にあり、と信じて、夫人は羽化《うか》して飛ぶであろうか。いやいや羊が食うまでも、角兵衛は再び引返《ひきかえ》してその音信《おとずれ》は伝えまい。
従って砂を崩せば、従って手にたまった、色々の貝殻にフト目を留《と》めて、
[#天から4字下げ]君とまたみる目《め》おひせば四方《よも》の海《うみ》の……
と我にもあらず口ずさんだ。
更に答えぬ。
もしまたうつせ貝《がい》が、大いなる水の心を語り得るなら、渚に敷いた、いささ貝《がい》の花吹雪は、いつも私語《ささやき》を絶えせぬだろうに。されば幼児《おさなご》が拾っても、われらが砂から掘り出しても、このものいわぬは同一《おなじ》である。
小貝《こがい》をそこで
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