春昼後刻
泉鏡花

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)間《ま》もなく

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)迷惑|処《どころ》では

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》って
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       二十四

 この雨は間《ま》もなく霽《は》れて、庭も山も青き天鵞絨《びろうど》に蝶花《ちょうはな》の刺繍《ぬいとり》ある霞《かすみ》を落した。何んの余波《なごり》やら、庵《いおり》にも、座にも、袖《そで》にも、菜種《なたね》の薫《かおり》が染《し》みたのである。
 出家は、さて日《ひ》が出口《でぐち》から、裏山のその蛇《じゃ》の矢倉《やぐら》を案内しよう、と老実《まめ》やかに勧めたけれども、この際、観音《かんおん》の御堂《みどう》の背後《うしろ》へ通り越す心持《こころもち》はしなかったので、挨拶《あいさつ》も後日《ごじつ》を期して、散策子は、やがて庵《いおり》を辞した。
 差当《さしあた》り、出家の物
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