語について、何んの思慮もなく、批評も出来ず、感想も陳《の》べられなかったので、言われた事、話されただけを、不残《のこらず》鵜呑《うの》みにして、天窓《あたま》から詰込《つめこ》んで、胸が膨《ふく》れるまでになったから、独《ひと》り静《しずか》に歩行《ある》きながら、消化《こな》して胃の腑《ふ》に落ちつけようと思ったから。
 対手《あいて》も出家だから仔細《しさい》はあるまい、(さようなら)が些《ち》と唐突《だしぬけ》であったかも知れぬ。
 ところで、石段を背後《うしろ》にして、行手《ゆくて》へ例の二階を置いて、吻《ほっ》と息をすると……、
「転寐《うたたね》に……」
 と先《ま》ず口の裏《うち》でいって見て、小首を傾けた。杖《ステッキ》が邪魔なので腕《かいな》の処《ところ》へ揺《ゆす》り上げて、引包《ひきつつ》んだその袖《そで》ともに腕組をした。菜種の花道《はなみち》、幕の外の引込《ひっこ》みには引立《ひった》たない野郎姿《やろうすがた》。雨上りで照々《てかてか》と日が射すのに、薄く一面にねんばりした足許《あしもと》、辷《すべ》って転ばねば可《よ》い。
「恋しき人を見てしより……夢てふ
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