捨てた。
そうして横ざまに砂に倒れた。腰の下はすぐになだれたけれども、辷《すべ》り落ちても埋《うも》れはせぬ。
しばらくして、その半眼《はんがん》に閉じた目は、斜めに鳴鶴《なきつる》ヶ|岬《さき》まで線を引いて、その半ばと思う点へ、ひらひらと燃え立つような、不知火《しらぬい》にはっきり覚めた。
とそれは獅子頭《ししがしら》の緋《ひ》の母衣《ほろ》であった。
二人とも出て来た。浜は鳴鶴ヶ岬から、小坪《こつぼ》の崕《がけ》まで、人影一ツ見えぬ処《ところ》へ。
停車場《ステイション》に演劇《しばい》がある、町も村も引っぷるって誰《たれ》が角兵衛に取合《とりあ》おう。あわれ人の中のぼうふらのような忙《せわ》しい稼業の児《こ》たち、今日はおのずから閑《かん》なのである。
二人は此処《ここ》でも後《あと》になり先になり、脚絆《きゃはん》の足を入れ違いに、頭《かしら》を組んで白波《しらなみ》を被《かつ》ぐばかり浪打際《なみうちぎわ》を歩行《ある》いたが、やがてその大きい方は、五、六尺|渚《なぎさ》を放《はな》れて、日影の如く散乱《ちりみだ》れた、かじめの中へ、草鞋《わらじ》を突出《つきだ
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