》の二階家へ行って取っておいで。」
留守へ言いつけた為替《かわせ》と見える。
後馳《おくれば》せに散策子は袂《たもと》へ手を突込《つきこ》んで、
「細《こまか》いのならありますよ。」
「否《いいえ》、可《よ》うござんすよ、さあ、兄《あに》や、行って来な。」
撥《ばち》を片手で引《ひッ》つかむと、恐る恐る差出《さしだ》した手を素疾《すばや》く引込《ひっこ》め、とさかをはらりと振って行《ゆ》く。
「さあ、お前こっちへおいで、」
小さな方を膝許《ひざもと》へ。
きょとんとして、ものも言わず、棒を呑んだ人形のような顔を、凝《じっ》と見て、
「幾歳《いくつ》なの、」
「八歳《やッつ》でごぜえス。」
「母《おっか》さんはないの、」
「角兵衛に、そんなものがあるもんか。」
「お前は知らないでもね、母様《おっかさん》の方は知ってるかも知れないよ、」
と衝《つ》と手を袴越《はかまごし》に白くかける、とぐいと引寄《ひきよ》せて、横抱きに抱くと、獅子頭《ししがしら》はばくりと仰向《あおむ》けに地を払って、草鞋《わらんじ》は高く反《そ》った。鶏《とり》の羽《はね》の飾《かざり》には、椰子《やし》の
前へ
次へ
全57ページ中43ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング