ずれ、菜種に、と見るとやがて、足許《あしもと》からそなたへ続く青麦の畠《はたけ》の端、玉脇の門の前へ、出て来た連獅子《れんじし》。
 汚れた萌黄《もえぎ》の裁着《たッつけ》に、泥草鞋《どろわらじ》の乾いた埃《ほこり》も、霞《かすみ》が麦にかかるよう、志《こころざ》して何処《どこ》へ行《ゆ》く。早《はや》その太鼓を打留《うちや》めて、急足《いそぎあし》に近づいた。いずれも子獅子の角兵衛《かくべえ》大小《だいしょう》。小さい方は八ツばかり、上は十三―四と見えたが、すぐに久能谷《くのや》の出口を突切《つッき》り、紅白の牡丹《ぼたん》の花、はっと俤《おもかげ》に立つばかり、ひらりと前を行《ゆ》き過ぎる。
「お待ちちょいと、」
 と声をかけた美女《たおやめ》は起直《おきなお》った。今の姿をそのままに、雪駄《せった》は獅子の蝶に飛ばして、土手の草に横坐《よこずわ》りになる。
 ト獅子は紅《くれない》の切《きれ》を捌《さば》いて、二つとも、立って頭《かしら》を向けた。
「ああ、あの、児《こ》たち、お待ちなね。」
 テンテンテン、(大きい方が)トンと当てると、太鼓の面《おも》に撥《ばち》が飛んで、ぶる
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