》んでも可《い》いんですよ。」
ようよう声が出て、
「戒名《かいみょう》、」
と口が利ける。
「何《なに》、何んというんです。」
「四角院円々三角居士《しかくいんまるまるさんかくこじ》と、」
いいながら土手に胸をつけて、袖《そで》を草に、太脛《ふくらはぎ》のあたりまで、友染《ゆうぜん》を敷乱《しきみだ》して、すらりと片足|片褄《かたづま》を泳がせながら、こう内《うち》へ掻込《かきこ》むようにして、鉛筆ですらすらとその三体《さんたい》の秘密を記《しる》した。
テンテンカラ、テンカラと、耳許《みみもと》に太鼓《たいこ》の音。二人の外《ほか》に人のない世ではない。アノ椿《つばき》の、燃え落ちるように、向うの茅屋《かやや》へ、続いてぼたぼたと溢《あふ》れたと思うと、菜種《なたね》の路《みち》を葉がくれに、真黄色《まっきいろ》な花の上へ、ひらりと彩《いろど》って出たものがある。
茅屋《かやや》の軒へ、鶏《にわとり》が二羽|舞上《まいあが》ったのかと思った。
二個《ふたつ》の頭《かしら》、獅子頭《ししがしら》、高いのと低いのと、後《あと》になり先になり、縺《もつ》れる、狂う、花すれ、葉
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