》△《さんかく》ばかり。
「ね、上手《じょうず》でしょう。此処等《ここいら》の人たちは、貴下《あなた》、玉脇《たまわき》では、絵を描《か》くと申しますとさ。この土手へ出ちゃ、何時《いつ》までもこうしていますのに、唯《ただ》いては、谷戸口《やとぐち》の番人のようでおかしゅうござんすから、いつかッからはじめたんですわ。
大層評判が宜《よろ》しゅうございますから……何《なん》ですよ、この頃に絵具《えのぐ》を持出《もちだ》して、草の上で風流の店びらきをしようと思います、大した写生じゃありませんか。
この円《まる》いのが海、この三角が山、この四角《しかく》いのが田圃《たんぼ》だと思えばそれでもようござんす。それから○《まる》い顔にして、□《しかく》い胴にして△《さんかく》に坐っている、今戸焼《いまどやき》の姉様《あねさん》だと思えばそれでも可《よ》うございます、袴《はかま》を穿《は》いた殿様だと思えばそれでも可《よ》いでしょう。
それから……水中に物あり、筆者に問えば知らずと答うと、高慢な顔色《かおつき》をしても可《い》いんですし、名を知らない死んだ人の戒名《かいみょう》だと思って拝《おが
前へ
次へ
全57ページ中39ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング