いけな》いよ、遣《や》っちゃ不可《いけ》ない。
 芸人なら芸人らしく芸をして銭《おあし》をお取り、とそうお言い。出来ないなら出来ないと言って乞食《こじき》をおし。なぜまた自分の芸が出来ないほど酒を呑んだ、と言ってお遣《や》り。いけ洒亜々々《しゃあしゃあ》失礼じゃないか。)
 とむらむらとして、どうしたんですか、じりじり胸が煮え返るようで極《き》めつけますと、窃《そっ》と跫音《あしおと》を忍んで、光《みつ》やは、二階を下りましたっけ。
 お恥《はずか》しゅうございますわ。
 甲高《かんだか》かったそうで、よく下まで聞えたと見えます。表二階《おもてにかい》にいたんですから。
(何んだって、)
 と門口《かどぐち》で喰《く》ってかかるような声がしました。
 枕をおさえて起上《おきあが》りますと、女中の声で、御病気なんだからと、こそこそいうのが聞えました。
 嘲《あざけ》るように、
(病人なら病人らしく死んじまえ。治《なお》るもんなら治ったら可《よ》かろう。何んだって愚図《ぐず》ついて、煩《わずら》っているんだ。)
 と赭顔《あからがお》なのが白い歯を剥《む》き出していうようです。はあ、そんな
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