かど》へ来ましたまでに、遠くから丁《ちょう》ど十三|度《たび》聞いたのでございます。」

       三十二

「女中が直ぐに出なかったんです。
(ねえ、助けておくんなさいな、お御酒《みき》を頂いたもんだからね、声が続かねえんで、えへ、えへ、)
 厭《いや》な咳《せき》なんぞして、
(遣《や》っておくんなさいよ、飲み過ぎて切《せつ》ねえんで、助けておくんなさい、お願《ねげ》えだ。)
 と言って独言《ひとりごと》のように、貴下《あなた》、
(遣《や》り切《きれ》ねえや、)ッて、いけ太々《ふとぶと》しい容子《ようす》ったらないんですもの。其処《そこ》らへ、べッべッ唾《つば》をしっかけていそうですわ。
 小銭《こぜに》の音をちゃらちゃらとさして、女中が出そうにしましたから、
(光《みつ》かい、光や、)
 と呼んで、二階の上《あが》り口へ来ましたのを、押留《おしと》めるように、床《とこ》の中から、
(何んだね、)
 と自分でも些《ち》と尖々《とげとげ》しく言ったんです。
(門附《かどづけ》でございます。)
(芸人《げいにん》かい!)
(はい、)
 ッて吃驚《びっくり》していました。
(不可《
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