心持がしましたの。
(おお、死んで見せようか、死ぬのが何も、)とつっと立つと、ふらふらして床《とこ》を放《はな》れて倒れました。段へ、裾《すそ》を投げ出して、欄干《らんかん》につかまった時、雨がさっと暗くなって、私はひとりで泣いたんです。それッきり、声も聞えなくなって、門附《かどづけ》は何処《どこ》へ参りましたか。雨も上って、また明《あかる》い日が当りました。何んですかねえ、十文字に小児《こども》を引背負《ひっしょ》って跣足《はだし》で歩行《ある》いている、四十|恰好《かっこう》の、巌乗《がんじょう》な、絵に描《か》いた、赤鬼《あかおに》と言った形のもののように、今こうやってお話をします内《うち》も考えられます。女中に聞いたのでもございませんのに――
またもう寝床へ倒れッきりになりましょうかとも存じましたけれども、そうしたら気でも違いそうですから、ぶらぶら日向《ひなた》へ出て来たんでございます。
否《いいえ》、はじめてお目にかかりました貴下《あなた》に、こんなお話を申上げまして、もう気が違っておりますのかも分りませんが、」
と言いかけて、心を籠《こ》めて見詰めたらしい、目の色は美
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