爺《じい》さんが、蛇をつかまえに行った時に、貴女《あなた》はお二階に、と言って、ちょっと御様子を漏《も》らしただけです。それも唯《ただ》御気分が悪いとだけ。
私の形を見て、お心持が悪くなったなんぞって事は、些《ちっ》とも話しませんから、知ろう道理《どうり》はないのです。但《ただ》礼をおっしゃるかも知れんというから、其奴《そいつ》は困ったと思いましたけれども、此処《ここ》を通らないじゃ帰られませんもんですから。こうと分ったら穴へでも入るんだっけ。お目にかかるのじゃなかったんです。しかし私が知らないで、二階から御覧なすっただけは、そりゃ仕方がない。」
「まだ、あんな事をおっしゃるよ。そうお疑いなさるんなら申しましょう。貴下《あなた》、このまあ麗《うらら》かな、樹も、草も、血があれば湧《わ》くんでしょう。朱《しゅ》の色した日の光にほかほかと、土も人膚《ひとはだ》のように暖《あたたこ》うござんす。竹があっても暗くなく、花に陰もありません。燃えるようにちらちら咲いて、水へ散っても朱塗《しゅぬり》の杯《さかずき》になってゆるゆる流れましょう。海も真蒼《まっさお》な酒のようで、空は、」
と白い掌
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