《たなそこ》を、膝に仰向《あおむ》けて打仰《うちあお》ぎ、
「緑の油のよう。とろとろと、曇《くもり》もないのに淀《よど》んでいて、夢を見ないかと勧めるようですわ。山の形も柔《やわら》かな天鵞絨《びろうど》の、ふっくりした括枕《くくりまくら》に似ています。そちこち陽炎《かげろう》や、糸遊《いとゆう》がたきしめた濃いたきもののように靡《なび》くでしょう。雲雀《ひばり》は鳴こうとしているんでしょう。鶯《うぐいす》が、遠くの方で、低い処《ところ》で、こちらにも里がある、楽しいよ、と鳴いています。何不足のない、申分《もうしぶん》のない、目を瞑《ねむ》れば直ぐにうとうとと夢を見ますような、この春の日中《ひなか》なんでございますがね、貴下《あなた》、これをどうお考えなさいますえ。」
「どうと言って、」
と言《ことば》に連れられた春のその日中《ひなか》から、瞳《ひとみ》を美女《たおやめ》の姿にかえした。
「貴下《あなた》は、どんなお心持がなさいますえ、」
「…………」
「お楽《たのし》みですか。」
「はあ、」
「お嬉《うれ》しゅうございますか。」
「はあ、」
「お賑《にぎや》かでございますか。」
「
前へ
次へ
全57ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング