ら、貴下《あなた》、」
と手許《てもと》に丈《たけ》のびた影のある、土筆《つくし》の根を摘《つ》み試《こころ》み、
「爾時《そのとき》は……、そして何んですか、切《せつ》なくって、あとで臥《ふせ》ったと申しますのに、爾時《そのとき》は、どんな心持《こころもち》でと言って可《い》いのでございましょうね。
やっぱり、あの、厭《いや》な心持になって、というほかはないではありませんか。それを申したんでございますよ。」
一言《いちごん》もなく……しばらくして、
「じゃ、そういう方《かた》がおあんなさるんですね、」と僅《わずか》に一方《いっぽう》へ切抜《きりぬ》けようとした。
「御存じの癖《くせ》に。」
と、伏兵《ふくへい》大いに起る。
「ええ、」
「御存じの癖に。」
「今お目にかかったばかり、お名も何も存じませんのに、どうしてそんな事が分ります。」
うたゝ寐《ね》に恋しき人を見てしより、その、みを、という名も知らぬではなかったけれども、夢のいわれも聞きたさに。
「それでも、私が気疾《きやみ》をしております事を御存じのようでしたわ。先刻《さっき》、」
「それは、何、あの畑打《はたう》ちの
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