》になさい、馬鹿になすって、」
と極《き》めつける。但《ただ》し笑いながら。
清《すず》しい目で屹《きっ》と見て、
「むずかしいのね? どう言えばこうおっしゃって、貴下《あなた》、弱いものをおいじめ遊ばすもんじゃないわ。私《わたし》は煩《わずら》っているんじゃありませんか。」
草に手をついて膝をずらし、
「お聞きなさいましよ、まあ、」
と恍惚《うっとり》したように笑《えみ》を含む口許《くちもと》は、鉄漿《かね》をつけていはしまいかと思われるほど、婀娜《あだ》めいたものであった。
「まあ、私に、恋しい懐《なつか》しい方《かた》があるとしましょうね。可《よ》うござんすか……」
二十九
「恋しい懐《なつか》しい方《かた》があって、そしてどうしても逢《あ》えないで、夜も寐《ね》られないほどに思い詰めて、心も乱れれば気も狂いそうになっておりますものが、せめて肖《に》たお方でもと思うのに、この頃はこうやって此処《ここ》らには東京からおいでなすったらしいのも見えません処《ところ》へ、何年ぶりか、幾月越《いくつきごし》か、フトそうらしい、肖《に》た姿をお見受け申したとしました
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