ね、貴下《あなた》、」
「はい、」
 と無意味に合点《がってん》して頷《うなず》くと、まだ心が済まぬらしく、
「言《ことば》とがめをなすってさ、真個《ほんと》にお人が悪いよ。」
 と異《おつ》に搦《から》む。
 聊《いささ》か弁《べん》ぜざるべからず、と横に見向いて、
「人の悪いのは貴女《あなた》でしょう。私《わたし》は何も言《ことば》とがめなんぞした覚えはない。心持が悪いとおっしゃるからおっしゃる通りに伺《うかが》いました。」
「そして、腹をお立てなすったんですもの。」
「否《いや》、恐縮をしたまでです。」
「そこは貴下《あなた》、お察し遊ばして下さる処《ところ》じゃありませんか。
 言《ことば》の綾《あや》もございますわ。朝顔の葉を御覧なさいまし、表はあんなに薄っぺらなもんですが、裏はふっくりしておりますもの……裏を聞いて下さいよ。」
「裏だと……お待ちなさいよ。」
 ええ、といきつぎに目を瞑《ねむ》って、仰向《あおむ》いて一呼吸《ひといき》ついて、
「心持《こころもち》が悪くなった反対なんだから、私の姿を見ると、それから心持が善《よ》くなった――事になる――可《い》い加減《かげん
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