がわりに、恋の重荷《おもに》でへし折れよう。
「真個《ほんと》に済みませんでした。」
 またぞろ先《せん》を越して、
「私《わたし》、どうしたら可《い》いでしょう。」
 と思い案ずる目を半《なか》ば閉じて、屈託《くったく》らしく、盲目《めくら》が歎息《たんそく》をするように、ものあわれな装《よそおい》して、
「うっかり飛んだ事を申上げて、私、そんなつもりで言ったんじゃありませんわ。
 貴下《あなた》のお姿を見て、それから心持《こころもち》が悪くなりましたって、言通《ことばどお》りの事が、もし真個《まったく》なら、どうして口へ出して言えますもんですか。貴下《あなた》のお姿を見て、それから心持が悪く……」
 再び口の裏《うち》で繰返して見て、
「おほほ、まあ、大概《たいがい》お察し遊ばして下さいましなね。」
 と楽にさし寄って、袖《そで》を土手へ敷いて凭《もた》れるようにして並べた。春の草は、その肩あたりを翠《みどり》に仕切って、二人の裾《すそ》は、足許《あしもと》なる麦畠に臨んだのである。
「そういうつもりで申上げたんでござんせんことは、よく分ってますじゃありませんか。」
「はい、」

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