。」
と逆寄《さかよ》せの決心で、そう言ったのをキッカケに、どかと土手の草へ腰をかけたつもりの処《ところ》、負けまい気の、魔《ま》ものの顔を見詰《みつ》めていたので、横ざまに落しつけるはずの腰が据《すわ》らず、床几《しょうぎ》を辷《すべ》って、ずるりと大地へ。
「あら、お危《あぶな》い。」
というが早いか、眩《まばゆ》いばかり目の前へ、霞《かすみ》を抜けた極彩色《ごくさいしき》。さそくに友染《ゆうぜん》の膝を乱して、繕《つくろ》いもなくはらりと折敷《おりし》き、片手が踏み抜いた下駄《げた》一ツ前壺《まえつぼ》を押して寄越《よこ》すと、扶《たす》け起すつもりであろう、片手が薄色の手巾《ハンケチ》ごと、ひらめいて芬《ぷん》と薫《かお》って、優《やさ》しく男の背《そびら》にかかった。
二十八
南無観世音大菩薩《なむかんぜおんだいぼさつ》………助けさせたまえと、散策子は心の裏《うち》、陣備《じんぞなえ》も身構《みがまえ》もこれにて粉《こな》になる。
「お足袋《たび》が泥だらけになりました、直《じ》き其処《そこ》でござんすから、ちょいとおいすがせ申しましょう。お脱《ぬ》ぎ
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