身《み》に衝《つつ》と寄り進んで、
「じゃ青大将の方が増《まし》だったんだ。だのに、わざわざ呼留《よびと》めて、災難を免《のが》れたとまで事を誇大《こだい》にして、礼なんぞおっしゃって、元来、私は余計なお世話だと思って、御婦人ばかりの御住居《おすまい》だと聞いたにつけても、いよいよ極《きまり》が悪くって、此処《ここ》だって、貴女《あなた》、こそこそ遁《に》げて通ろうとしたんじゃありませんか。それを大袈裟《おおげさ》に礼を言って、極《きまり》を悪がらせた上に、姿とは何事です。幽霊《ゆうれい》じゃあるまいし、心持《こころもち》を悪くする姿というがありますか。図体《ずうたい》とか、状《さま》とかいうものですよ。その私の図体を見て、心持が悪くなったは些《ち》と烈《はげ》しい。それがために寝たは、残酷じゃありませんか。
要《い》らんおせっかいを申上げたのが、見苦しかったらそうおっしゃい。このお関所をあやまって通して頂く――勧進帳《かんじんちょう》でも読みましょうか。それでいけなけりゃ仕方がない。元の巌殿《いわど》へ引返《ひっかえ》して、山越《やまごえ》で出奔《しゅっぽん》する分《ぶん》の事です
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